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ENOKIYA
場所:大分県由布市由布院
用途:旅館、ダイング、茶房
設計監理:塩塚隆生アトリエ
協力:下村正樹建築設計事務所
構造:木村洋介/BEYOND ENGINEERING(新築棟)
電気:AES設計
機械:エス・ケイ設計
サイン・テキスタイル:よつめ染布舎
ブックディレクション:カモシカ書店
施工:奥田組
由布院温泉の中心部にある既存旅館の増築・改修工事。RC造のエレベーター棟増築に加え、既存鉄骨造3階建ての本館棟及び木造平屋建ての茶房棟の内外装大規模改修を行った。由布岳を背後に臨み、川向いには地域を代表する名旅館の緑豊かな庭の緑が借景となる恵まれた景観の中にある。また、この旅館が建つ大分川沿いの「通り」は、多くの観光客が行き交う「湯ノ坪街道」の1本裏手に位置し、その並びにはいずれも「焼き杉外壁」や黒く着色された「木板外壁・板塀」を持つ複数のアート関連施設が立ち並び、丁寧にデザインされた植栽の緑とあいまって、落ち着きのある上質な景観が広がっている。
計画にあたっては、年間客数400万人とも言われる由布院温泉のこれからがみえるような旅館の在り方を探るなかで、従来の旅館の中だけで完結するホスピタリティから、宿泊利用者以外のまちにおとずれている方や地元で生活している方、動物(ペット)も、自然に出入りできて言葉を交わす、交流が生まれる新しいまちの拠点のような役割を目指そうとした。その上で、前面の「通り」を旅館の中に引き込むように、1階の共用部の床をコンクリート、壁や天井を木毛板や吹付材など屋外仕様とし、出入口を開放すれば半屋外の空間として使えるようにした。また、誰もがとどまれる溜まりの空間として、通りに面して開放できる「ラボ」スペースを設けた。ラボは、通常は談話や待合スペースとして、美術の展示や講演などのイベント、隣接するダイニングとの一体利用でのパーティーなどを想定している。本館棟に隣接する茶房は、地元の利用者を想定した喫茶(夜間はパブ)のため、宿泊客や観光客は地域の日常の中に入っていくことになる。そこでの交流は新しい観光のスタイルでもあり、旅館が地域に開くというこれまでにないホスピタリティへのチャレンジである。
外観は、既存外壁を濃灰色で塗装し、瓦屋根・化粧軒はそのまま利用しつつ、軒先に断面寸法75×150の少し無骨に見えるサイズのヒノキ材木製ルーバーを設置した。ルーバーは防腐剤注入加工の上、浸透性塗装で黒に着色。これにより、外観の表情を一新させた。ルーバーは開口部の有無や法規的要件などの諸条件を整理しながら、ランダムパターンとすることで、ルーバーのサイズと合わせて繊細さよりも躍動感のある有機的な表情で新しい街並みを目指そうとした。
12部屋ある客室は、既存のワンルームの間取りをそのままに、部屋の半分を新たに床組をして床高を上げて、ベッドと床座を併設することで利用人数や使い方に柔軟に対応できる設えとした。また、床・壁・天井、いずれも銀色の素材を混ぜた光に反応する仕上げとし、日射や照明によって部屋の雰囲気が変化するようにした。