クサバアパートメント

photo 矢野紀行(Nacasa & Partners Inc.,)

クサバアパートメント

大分県大分市
設計:2005.08-2006.08
施工:2006.08-10
室内改装
設計監理:塩塚隆生アトリエ
施工:豊國建設

シーンの輻輳による新たな関係性

大分市中心市街に建つRC造5階建てのアパートメントの改装です。既存の間取りはいわゆる「3DK」でしたが、 内装をすべて撤去し躯体のみとなった状態では「L・D・K」による表記は意味を為さなくなっていました。
そこで、既存躯体によっておおよそ田の字型に4分割された状態をそのままそれぞれを室としてとらえることで、 室相互の新たな関係性と全体をつくり出すことをテーマとしました。
 4つの室には個々に独自の性格を持たせるのではなく、2種類の異なった様相の空間を設定しそれぞれに割り振りました。  ひとつはエントランスから同一レベルにあるコンクリートの土間と、白く塗装され素材感が消された壁面の空間。  もうひとつは200mmの高さではっきりとした木目の床と、既存コンクリートの素材が強く現れた壁面の空間です。
 このように床も壁も対照的な2種類の空間を、田の字型に分割された平面の中で2室ずつ対角に現れるよう配置していきました。  各室のいわゆる住機能に関わる設えは、即物的な存在となるように計画しました。まるで簡易ステージのように、  既存躯体に対して後からぽんと置いて嵌め込まれたような床組をはじめとして、キッチンや衛生設備、建具に至るまでを  「後から持ち込まれた舞台装置」のようなものとして扱いました。
 こうした要素の即物的な振る舞いは、室相互の関係性のみが強く現れるように意図したものです。  このようにして得られた室相互の関係性は、各室のシーンに現れてきます。床面のレベル差と建具枠を持たない開口を  通してその向こうに見える各室は、単一のシーンとして切り取られることはなく、いくつかのシーンの輻輳として認識されます。  つまり、対角に配置された2種類×2組の空間は、レベル差やテクスチャの差異の組み合わせが同時的に知覚されることで、  複雑なシークエンスを伴うことなく、まるで断面図を見るような断片的なイメージの重層した空間をつくり出します。  ひとつのシーンに対してひとつの像が結実するのではなく、常に視覚・感覚・意識が揺り動かされながら、室そのものよりは  室相互の関係性が強く現れるものと考えています。  こうして4つの室は、LDKという単体の意味以上に、空間全体の中で互いに欠くことのできない関係として再構成されるものと考えています。