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大分県立美術館 「朝倉文夫生誕140周年記念 猫と巡る140年、そして現在」
場所:大分県立美術館
会場構成:塩塚隆生アトリエ
アートディレクション:長門敦(デザインマップ)
施工:三清社
会期:2023年6月9日(金)~8月15日(火)
大分県立美術館 1階 展示室Aにての、「朝倉文夫生誕140周年記念」展覧会の展示構成。
■展示概要
彫刻家・朝倉文夫(大分県朝地町生まれ・1883-1964)は、自然主義的写実を貫き、日本の彫塑会をリードする中心的な存在として活躍し、大きな足跡を残した。一方で、無類の愛猫家としても知られ、数十体にのぼる猫の作品を残している。本展は、朝倉文夫の創作を振り返るとともに、生誕から140年を経た今、大分を拠点に活動を展開する美術家の安部泰輔とザ・キャビンカンパニーの視点で朝倉文夫を捉え直し、競演する。また、美術館での展示をひとつの「入口=プロローグ」と位置づけ、大分市内に点在する朝倉作品を、さらに朝地町の朝倉文夫記念館や台東区谷中の朝倉文夫彫塑館への循環と広がりを促す展示でもある。
■展示計画
彫刻作品の展示計画は、その台座について考えることでもある。なるべく作品と干渉せず、この建築空間ならではの構成にしたいと思っていた。坂茂氏設計の県立美術館には、独自のモデュールを床の割付にみることができる。展示室は、空調の吹き出しスリットを兼ねた5mmの目地を介して470x470mmの可動式の床パネルが並ぶ均質な空間である。そこで、この床が1枚1枚持ち上がってそれがそのまま作品の台座にできないかと考えた。手数の少ない操作で、台座にも床にもみえるデザインの一歩手前のような展示空間にできれば、朝倉の強い作品がより際立つように思えた。
人物像は、縦長の空間を活かして時系列に、入口に向かって正面を向くよう展示室の中央に配置した。作品は床にそのまま置かれ、その間を歩いて進むと作品は肩がすれ違うような距離で同じ目線で通り過ぎ、観覧者は朝倉の時間の中を歩いているような感覚になる。これら人物像が置かれる床パネルの上にはアルミの板を置いて結界をつくっている。猫のための台座も含め水平面をアルミやシルバーの素材とすることで、反射効果で作品を下から照らす役割もある。展示室を奥へと進み時間が現在に近づくにつれ、自然光が正面から入ってくる。
また、展示のコンセプトでもある美術館の外との循環や連携がこの展示空間からもみてとれるよう、庭園のような展示空間というのもテーマだった。これらの台座は、主に展示室の両壁際に配置し、街並みや地形を感じられるような位置や高さで構成した。そこに猫の作品を、時系列に関係なく時空を飛び越えて、それぞれのコンディションにあった居場所を探して置いていった。
やがて競演作家の安部泰輔氏の作品「猫バック」が現われる。立体である朝倉の猫を展開図として二次元に分解する。立体と平面の行き来が彼のテーマである。展示室のロビーでは会期中、参加者のスケッチをぬいぐるみとして立体に置き換える公開制作を行っている。そして、展示室の出口には絵本作家でもあるザ・キャビンカンパニーの立体像がある。朝倉の作品を深く読み解き現代に解釈した展覧会を象徴する「明日の門」は、観覧者を外へと導き、朝倉作品への循環をうながす。