photo 矢野紀行 (Nacasa & Partners Inc.,)
城下町の住宅
Threefold house
熊本県熊本市
2005.10~
2007.01完成
専用住宅
RC造3F
132.30m2
設計監理:
意匠:塩塚隆生アトリエ
構造:大賀成典
設備:河野設備設計室
施工:建吉組
「植物的たち方・絞り・連続写真」
熊本市街地、寺町の風情を残す、細い路地が行き交う密集した住宅地に敷地はあります。計画地の隣接地も、道路に面した北側以外は2階建てもしくは3階建ての建物が敷地境界線際まで迫っています。日照が望める空地や隣家の庭が隣接しているのは、南東の方角のわずかなスペースしかありません。このような環境の中で、居住する3世代6人がそれぞれの豊かさを獲得できる建物を計画しようと考えました。
植物がその場所で、日照を得るため・呼吸をするために最適なコンディションをかたちづくるように、この場所に相応しい建物のコンディションをつくりだそうとしました。ここでは、日照を得ようと背伸びをするかのように3階建てを、また南東方向からの日照をできるだけ下階に導き・隣地との間の隙間を最大限得ようとするために、南と東の外壁面を階毎にセットバックする構成をとっています。開口部は、各部屋において相応しい位置に設定できるように、1650巾の開口を繰り返すというルールで配置していきました。セットバックした外壁は下階の壁の位置とはズレていますが、上下階の部屋を間仕切る壁と交差させることで、トランプを積み上げるかのごとく力を伝達して平衡を保っています。
一方、北西隅の螺旋階段を軸に対角線を意識しながら南東方向に空間が展開する構成は、室を間仕切る壁がカメラの絞り板のような効果を生み出します。例えばワンルムームで全体がのぞめる場合の風景の見え方とは異なり、セットバックによる階毎の奥行きの違いと、階段室からのぞむ部屋毎に異なる隙間巾とが相まって、屋外の像をはっきりと意識させる、知覚の感度を上げるような効果が得られると考えました。また同時に、螺旋階段による固定された視線の移動は、連続写真を経験するかのごとく、断片的に飛び込んでくる屋外の像をつなぎ合わせて再編集することで、居住者が個々に異なる全体像を獲得できるのではないかと考えました。
建物全体が屋外を射程するカメラのごとく、植物的なたち方と相まってわずかな屋外スペースの豊かさを、居住者に最大限に写し込むような魅力を持たせたいと考えました。